オホーツク管内

オホーツクの建設業から農業への異業種参入!出向社員の給与負担と労災の適用

 

北海道では、建設業が農業分野へ参入する取組が各地で進められており、オホーツク管内でも同様の事例がみられます。

こうした異業種参入では、建設会社の従業員を新設した農業法人へ「出向」させるケースがある場合、給与負担や労災保険のルールを誤るとトラブルに発展します。

本記事では、出向時の給与精算ルールと労災保険の適用関係、そして適正な仕組みづくりについて解説します。

 

1. 出向社員の給与は「どちらの会社」が負担するのか?

従業員を別の法人(農業法人)へ出向させる場合は注意が必要です。

給与の支払いや社会保険の負担について、建設会社(出向元)と農業法人(出向先)なのか明確にする必要があります。

実務上、給与計算のミスが起こりにくいのは「建設会社が給与を全額支払い、農業法人がその負担分を後から建設会社へ支払う(経営指導料・出向負担金)」という方式です。

負担・支払いのルール 実務上のポイント
給与の直接支払い
(従業員へ)
出向元である「建設会社」がこれまで通り支払い、給与明細を発行し、社会保険料の控除も行います。従業員側の混乱を防ぐことができます。
企業間の負担金精算
(会社間)
出向先である「農業法人」での労働時間に応じた人件費分を、毎月正確に計算し、建設会社へ支払う(立替精算する)仕組みの構築が必須となります。

 

2. 最大の罠!「農業のケガ」に「建設業の労災」は使えない

出向において、最も重大な経営リスクとなるのが「労災保険」の扱いです。

リスクとなる理由は、給与を払っている建設会社の労災保険がそのまま使えると勘違いしてしまうからです。

労災保険の絶対的なルールとして、労災保険は「実際に働いている事業所(出向先)」の保険が適用されます。

保険の種類 出向時の適用先ルール
労災保険 【出向先(農業法人)で適用】建設業の労災は使えません。農業法人側で新たに労災保険を成立させ、出向社員分の保険料を申告・納付する必要があります。
雇用保険・社会保険 【出向元(建設会社)で適用】給与をメインで支払っている建設会社側で引き続き加入し、手続きを行います。

トラクターの運転中や農作業中にケガをした場合、建設業の労災として申請すると「虚偽申告(労災隠し)」となり、厳しい罰則の対象となります。

 

3. 農業法人での「労災未加入」による致命的な損失シミュレーション

「給与は建設会社から出ているから」と農業法人側で労災保険の成立手続きを怠っていた。

出向社員がトラクターから転落して大ケガ(休業後に後遺障害が残るケース)をした場合の損失シミュレーションを見てみましょう。

【条件】
・農業法人側の労災保険:未加入(故意または重大な過失)
・国から従業員へ支給された休業補償(休んだ期間の給与補填):900,000円
・国から従業員へ支給された障害補償一時金(後遺障害分):2,000,000円

※療養開始後3年間に支給されるものに限ります。
※治療費(療養補償給付)は国から給付されますが、事業主への費用徴収の対象からは除外されます。

発生する損失項目 具体的な計算内容と被害規模
① 国からのペナルティ(費用徴収) 未加入期間中に起きた事故の場合、国が労働者へ支給した休業補償や障害補償等の100%(または40%)を事業主へ請求します。
最大2,900,000円のペナルティ請求が会社に来ます。
② 民事上の損害賠償リスク 労災手続きの不備による会社への不信感から、従業員との関係が悪化し、安全配慮義務違反として数百万〜数千万円の損害賠償訴訟に発展するリスクがあります。
③ 建設業の許認可への悪影響 労基署からの是正勧告や送検に発展した場合、親会社である建設会社の「指名停止」や「公共工事の入札参加資格」に致命的な影響を及ぼします。

 

4. 建設業から農業への出向と労務管理に関するよくある質問(Q&A)

 

Q1. 建設会社の従業員を、特に本人の同意なく農業法人で働かせても良いですか?

A. 原則として、出向には「従業員本人の個別同意」または「就業規則における明確な根拠規程」が必要です。

特に建設業(土木・建築)で採用した人材を農業へ配置転換することは、労働環境が大きく変わるためトラブルになりやすいポイントです。

出向命令権を行使するためには、事前に就業規則を整備し、出向協定書や辞令を正しく交付する厳格な手続きが求められます。

 

Q2. 農業法人側で負担する出向社員の人件費は、どのように計算すればよいですか?

A. 建設会社で支給している「基本給」「各種手当」「会社負担分の法定福利費(社会保険料)」をベースに計算します。

農業法人で実際に働いた日数・時間(残業時間を含む)を正確にタイムカード等で集計し、毎月会社間で負担金を算出します。

この計算を手作業で行うと経理負担が爆発するため、クラウド勤怠システムでの一元管理が必須となります。

 

5. まとめ:異業種参入の成功は、完璧な「給与と労災の切り分け」から

建設業が持つ資本と重機ネットワークを活かした、新たな事業として農業への参入は非常に強力なビジネスモデルです。

その反面、法人間の複雑な給与精算や、別々の労災保険の適用を手作業で管理するのは経営にとってリスクです。

こんな症状があれば労基署の指導リスクが迫っています
建設業の社員を農業法人で働かせているが、「出向契約書」を交わしていない。
農業法人で働く社員の給与を、建設会社の売上からどんぶり勘定で支払っている。
農業法人側で「労災保険」の成立手続きを行ったかどうかが分からない。

給与計算のミスや手続き漏れが、親会社である建設会社の信用問題に波及することだけは絶対に避けなければなりません。

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