基礎知識

家族(妻や子供)を役員にする場合の適正な役員報酬額と雇用保険に加入できないデメリット

 

オホーツク管内の中小企業では、社長を支えるために配偶者(妻や夫)や後継者であるお子様が、会社の役員として名を連ねる家族経営のスタイルが数多く見られます。

「会社の利益を分散して節税したい」「家族に会社の財産を残したい」という目的で家族を役員にするケースは多いですが、ここで必ず直面するのが「役員報酬はいくらに設定すればいいのか?」という問題です。

安易に高額な報酬を設定すると税務調査でペナルティを受けますし、逆に給与計算や労務の手続きを間違えると「万が一の時に失業保険や育児休業給付金がもらえない」という取り返しのつかない事態に陥ります。

本記事では、家族を役員にする際の「適正な報酬額の決め方」と、給与計算担当者が絶対に知っておくべき「雇用保険のデメリット(給付金の損失)」について社労士が解説します。

 

1. 家族役員の適正な報酬額は「勤務実態」で決まる

「妻を役員にした場合、月額いくらまでなら問題ないですか?」という質問をよくいただきますが、法律上「〇〇円までならOK」という明確な基準はありません。

適正な報酬額を決める唯一の基準は、その家族が「実際にどれくらい会社の業務を行っているか(勤務実態)」に尽きます。

【図解:家族への役員報酬 OK・NGの目安】

税務調査で否認される(NG) 名義だけで全く出社していないのに月額数十万円を支給している
他の従業員(フルタイム)よりも勤務時間が短いのに、報酬が異常に高い
経費として認められる(OK) 毎日出社して経理や総務の責任者として実務をこなしている
同業他社の同じような役職の人と同水準の金額に設定している

もし実態が伴っていないのに「節税になるから」と月額50万円などの高額な報酬を支払っていると、税務調査で「過大役員報酬」として否認され、会社の経費にできず法人税を追加で支払うことになります。

実務をほとんどしていない(名ばかり役員)のであれば、月額数万円程度の非常勤役員として設定するのが安全なラインです。

☑【重要】自社における家族役員の「適正な報酬額の算定」や「過大役員報酬とみなされるライン」など、個別具体的な税務判断については、必ず顧問税理士にご確認ください。

 

2. 最大のデメリット!役員は雇用保険に加入できない

家族を役員にする際、税金のことを最優先とするばかりに、「労務(社会保険や雇用保険)のリスク」を見落としている経営者が非常に多いです。

法律上、会社の役員(取締役など)は労働者ではないため、原則として雇用保険に加入することができません。

これによるデメリットは非常に大きいです。

【図解:従業員から役員になった場合のデメリット】

失業保険(基本手当) 会社が倒産したり辞めたりしても、失業保険を一切受け取れない
育児休業給付金 産休・育休を取得して仕事を休んでも、国からの給付金が一切支給されない
労災保険 業務中にケガをしても、原則として労災保険を使って治療することができない

 

3. 【計算事例】子供を役員にして育児休業給付金がゼロになる悲劇

特に、今後出産を控えているお子様(娘さんなど)や奥様を役員にする場合は要注意です。

従業員のままであればもらえたはずの給付金が、役員になった瞬間に全額消滅してしまいます。

【給付金の損失シミュレーション:月給20万円の子供が出産・育休を1年取得する場合】

従業員のまま(雇用保険あり) 育休開始から半年間:月額約13万4千円
半年経過後〜1年まで:月額約10万円
1年間の給付金合計:約140万円を受け取れる
役員になった場合(雇用保険なし) 給付金は一切出ない(0円)
労使のダメージ 本来もらえるはずだった140万円をまるごと損してしまう

「節税のために役員にした結果、国からもらえるはずだった140万円を失ってしまった」というケースは実務で頻発します。

ライフイベントを控えたご家族の役員就任は、慎重に判断しなければなりません。

 

4. 解決策:雇用保険に入れる「使用人兼務役員」という選択肢

「役員にはしたいけれど、毎日従業員と同じように働いているし、雇用保険のメリットも捨てがたい」という場合の解決策として、使用人兼務役員(しようにんけんむやくいん)という制度があります。

これは、「取締役営業部長」や「取締役総務部長」のように、役員としての身分を持ちながら、従業員(使用人)としての実態も兼ね備えている人のことです。

以下の条件を満たし、ハローワークで所定の手続きを行えば、役員であっても例外的に雇用保険に加入し続けることができます。

  • 代表取締役など、会社を代表する立場ではないこと
  • 社長の指揮命令を受けて、他の従業員と同じように働いていること
  • 役員報酬よりも、従業員としての給与(使用人分給与)の方が高い、または明確に区分されていること

ただし、同居している親族(妻や子供)の場合は「社長と利益が一体である」とみなされやすく、ハローワークの審査が非常に厳しくなります。

出勤簿や賃金台帳をしっかり整備し、明確な労働実態を証明しなければなりません。

 

5. まとめ:家族役員の手続きはプロに任せるのが安全です

会社を支えてくれる奥様や、後継者であるお子様を役員にするという決断は、会社の経営を安定させ、財産を守る上で非常に有効な手段です。

しかし、税務の知識と労務の知識どちらか片方でも欠けていれば、「税務調査での高額なペナルティ」や「もらえるはずだった給付金消滅」となります。

自社でご家族を役員にする予定がある、または既に役員にしている場合は、今すぐ以下のポイントをチェックしてください。

 

【今すぐ確認!】家族役員の労務チェックリスト

  • 実際の業務内容に見合った、適正な役員報酬額が設定されているか
  • 雇用保険の資格喪失手続きを忘れずに行っているか(給付金がもらえないリスクを理解しているか)
  • 雇用保険を継続させたい場合、使用人兼務役員としての労働実態と書類が整備されているか

 

☑「適正な役員報酬の額」や「法人税・所得税への影響」に関することは、税金のプロである「税理士」にご相談ください。

そして、「失業保険や育休給付金の損失を防ぐ手続き」「ハローワークや年金事務所の厳しい審査をクリアするための労務管理」については、給与計算と労働法のプロである「社労士」へご相談いただくのが鉄則です。

「税理士には相談しているけれど、雇用保険や給付金のことまでは考えていなかった…」
「うちの妻の役員設定、今のままで本当に労務トラブルにならないだろうか?」

少しでも不安を感じた経営者様は、取り返しのつかない損失が発生する前に、給与計算と社会保険手続きの専門家である社労士でご相談ください。

 

-基礎知識