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佐呂間町の酪農や畜産業におけるまかないや住み込み等の現物給与と社会保険料の計算

 

佐呂間町の基幹産業である酪農・畜産業では、遠方から来るスタッフのために「住み込みの寮」や「毎日のまかない」を用意する農家もあるかと思います。

こうした福利厚生は労務管理上で「現物給与」として扱われ、社会保険料の計算に大きな影響を与えますので、計算から外すとトラブルになることもあります。

本記事では、佐呂間町の農家が前向きな組織づくりを進めるための、適法な現物給与のルールと正しい保険料計算のポイントを社労士が分かりやすく解説します。

 

1. 現物給与の仕組みと社会保険料計算の結論

まず、従業員に無料または著しく安い価格で食事や住宅を提供している場合、それは「現物給与」として金銭的な価値に換算し、毎月の基本給に上乗せして社会保険料(標準報酬月額)や労働保険料を計算しなければなりません。

社会保険料は、毎月支払われる「報酬」をベースに決定されますが、この報酬には現金だけでなく、食事や住宅といった現物で支給されるものも含まれます。

これらを計算から外すと、本来納めるべき社会保険料よりも安い金額で申告している状態となり、将来的に年金事務所の調査などで過去に遡って多額の保険料を追徴されるリスクが生じます。

国が定めた基準に基づいて現物給与を正しく評価し、透明性の高い給与・保険料計算を行うことは、企業としてのコンプライアンスを高め、従業員の将来の年金額を適正に保障することに繋がります。

 

2. 現物給与の原則と社会保険・雇用保険のルール

労働基準法第24条では、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」という原則が定められており、原則として賃金の一部を「モノ」で支払うことは禁じられています。

ただし、労働協約に別段の定めがある場合や、社会保険制度における「報酬」として扱う場合は、一定のルールに従って評価が行われます。

社会保険(健康保険・厚生年金保険)において、現物給与を金銭に換算する際の基準となるのが、厚生労働大臣が都道府県ごとに定める「現物給与価額」です。

北海道にも「食事の価額」と「住宅の価額」が明確に定められており、この金額を用いて毎月の報酬額に加算します。

また、加入要件を満たすスタッフについては、雇用保険料の計算のベースとなる「賃金総額」にも、この現物給与価額を含める必要があります。

雇用保険は「1週間の所定労働時間が20時間以上であること」、「31日以上の雇用見込みがあること」の両方を満たせば、雇用保険の被保険者となる加入義務が生じます。

 

3. 佐呂間町の酪農・畜産業が配慮すべき地域事情

佐呂間町で酪農や畜産業を営む場合、地域の気候や住環境に合わせた福利厚生と、給与計算への反映方法を整理する必要があります。

例えば、牧場の敷地内に建てられた単身用のプレハブ寮や、使わなくなった実家の一室を従業員に提供するケースです。

仮に家賃を取らずに無料で貸与している場合、北海道に定められた「1畳あたりの現物給与価額」に居住スペースの畳数(現時点)を掛けて算出した金額を、その従業員の報酬に上乗せしなければなりません。

また、佐呂間町のように冬の寒さが厳しい地域では、冬期手当(燃料手当)を支給することがあります。

冬期手当を毎月定額で支給する場合は、現物給与と同様に社会保険料の計算基礎(報酬)に含める必要があります。

現金で支給される手当と、現物で支給される食事・住宅の評価額を漏れなく合算し、正しい標準報酬月額を算出する体制が求められます。

 

4. 現金給与のみと現物給与がある場合の計算比較表

現金のみで給与を支払う場合と、まかないや寮などの現物給与を提供している場合とで、社会保険料の計算基礎となる「報酬月額」の出し方がどう変わるのかを比較表で整理します。

項目 現金給与のみの場合 現物給与(食事・住宅等)がある場合
報酬の対象となるもの 基本給、通勤手当、残業代などの現金 現金の給与 + 現物給与価額に換算した額
換算の基準 不要(支給額そのまま) 都道府県ごとに定められた「現物給与価額」
従業員が一部負担している場合 該当なし 現物給与価額から本人負担額を差し引いた額を加算
標準報酬月額(保険料)の等級 現金給与の総額によって決定 現物給与を加算した総額によって決定(等級が上がる可能性あり)

 

5. 佐呂間町の牧場を想定した給与・保険料シミュレーション

佐呂間町内の酪農牧場で働き、寮に入りながら毎日2食のまかないについて、無料で提供されている従業員をモデルケースとします。

この場合における、現物給与を加味した報酬月額の計算をシミュレーションしてみましょう。
(※現物給与価額は架空の概算値を使用します)

条件:
・現金で支給される給与(基本給や手当等):230,000円
・提供されているまかない:1日2食(昼・夜)を月20日提供
・提供されている寮:居住スペースが6畳
・北海道の現物給与価額(仮):食事1食につき250円、住宅1畳につき2,000円

ステップ1:食事の現物給与価額を計算
250円 × 2食 × 20日 = 10,000円/月

ステップ2:住宅の現物給与価額を計算
2,000円 × 6畳 = 12,000円/月

ステップ3:社会保険料の計算基礎となる「報酬月額」を算出
現金給与 230,000円 + 食事 10,000円 + 住宅 12,000円 = 252,000円

もし現物給与の計算を忘れて「230,000円」で社会保険の等級を決定すると、本来の「252,000円」の等級とはズレが生じ、保険料の未納状態となってしまいます。

これが現物給与計算で確認すべき重要なポイントです。

【重要:令和8年10月以降の「住宅」に関する法改正】
上記のシミュレーションは「居住室の畳数(1畳あたり)」を用いた計算例です。

令和8年10月1日より法律が改正され、住宅の現物給与の算定基準が「住宅の総面積(1平方メートルあたり)」へと変更します。

10月以降は、居間や寝室だけでなく、玄関・台所・トイレ・浴室・廊下などを含めた「総面積(㎡)」での計算が必要となり、単価の仕組みも異なります。

これにより現物給与額が変動し、社会保険料の等級が変わる可能性があるため、必ず最新の日本年金機構の「現物給与価額一覧表」をご確認ください。

 

6. 安心して働ける環境を作るための体制構築と対策

現物給与を適法に運用し、従業員に不信感を抱かせないためには、丁寧な説明とシステムでの確実な管理が必要です。

企業が取るべき対策は以下の通りです。

  • 本人負担額の設定と控除:現物給与価額の全額を報酬に上乗せして保険料が高くなるのを防ぐため、一定のルールに基づき、従業員の給与から「寮費」や「食事代」として、適正な額を天引き(本人負担)する運用に切り替えることも有効です。ただし、給与から天引きするには労使協定の締結が必須です。
  • 給与ソフトへの正しい設定:クラウド給与計算システムには、現物給与の額を「社会保険の計算基礎には含めるが、現金の支給額には含めない」という特殊な設定項目が用意されています。社労士のアドバイスを受けながら、これを正確に初期設定します。
  • 従業員へのメリットの共有:現物給与を算入すると社会保険料が上がり、手取りが少し減るように感じるスタッフもいます。しかし「標準報酬月額が上がるということは、将来受け取れる厚生年金の額が増えたり、傷病手当金の額が高くなったりするメリットがある」ということを、前向きに伝えてあげることが大切です。

 

7. 酪農・畜産業の現物給与に関するよくある質問(Q&A)

Q1. 季節雇用の短期アルバイトにも現物給与の計算は必要ですか?

季節雇用や短期アルバイトであっても、健康保険・厚生年金の被保険者に該当する場合は、現物給与を含めて標準報酬月額を決定する必要があります。

例えば、当初の雇用期間が2カ月以内であっても、更新等により2カ月を超えて雇用される見込みがある場合は、当初から被保険者となり、現物給与の算入が必要です。

また、日々雇い入れられる者についても、1カ月を超えて引き続き使用されるに至った場合は、その日から被保険者となり、同様に現物給与を含めた報酬で標準報酬月額を決定します。

 

Q2. 寮費として毎月5,000円を給与から天引きして負担させています。この場合も現物給与の加算は必要ですか?

従業員が寮費や食事代の一部を負担している場合、都道府県が定めた「現物給与価額」と「本人の負担額」を比較して計算します。

ただし、住宅と食事でルールが異なるため注意が必要です。

■ 住宅(寮費など)の場合

  • 本人の負担額が現物給与価額よりも少ない場合、その「差額」だけを現物給与として報酬に加算します。
  • もし、本人の負担額が基準額を上回っていれば、現物給与としての加算は不要になります。

■ 食事(まかない代など)の場合

  • 本人の負担額が、現物給与価額の「3分の2以上」であれば、現物給与としての加算は不要(ゼロ扱い)となります。
  • 本人の負担額が「3分の2未満」の場合にのみ、現物給与価額との「差額」を報酬に加算します。

 

Q3. 牧場で余った牛乳や、売り物にならない規格外のお肉をスタッフに無料で配る場合も現物給与になりますか?

業務の性質上、たまに発生する規格外品を恩恵的に無償で配る程度であれば、原則として社会保険料の計算基礎となる現物給与(報酬)には該当しません。

報酬として扱われるのは、食事や住宅など「定期的かつ継続的に提供され、従業員の生活の利益になっているもの」に限られます。

 

8. まとめ

佐呂間町の酪農・畜産業において、働き手に住まいや温かい食事を提供することは、厳しい自然環境の中で共に生きていくための素晴らしい助け合いの精神です。

福利厚生を法的に正しく運用することは、会社のリスクを取り除き、従業員が社会保険の恩恵を受けられる重要なことです。

社会保険労務士という専門家の知見を日々のバックオフィス業務に取り入れ、正確で透明性の高い給与計算を通じて、人も動物も健やかに育つ魅力的な牧場づくりを一緒に進めていきましょう。

給与計算は会社のリスク管理そのものです。まずは自社の状況をチェックしてみてくださいね。

 

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