トラブル対策

会社の車や備品を壊した社員の給与から修理代を天引きする際の違法リスクとNG対応

 

広大なオホーツク管内での営業活動や、冬の雪道運転において、社用車の軽い接触事故や備品の破損は避けて通れないリスクです。

社員の不注意で数十万円の修理代が発生したとき、経営者が「本人の過失だから、毎月の給料から3万円ずつ天引きして返させよう」と考えることはやめてください。

給与からの天引き処理を社長の独断で行うことは、労働トラブルにおいて会社側とって危険な対応です。

本記事では、社員が会社に損害を与えた場合の「給与天引きの違法性」と、適法に修理代を請求・精算するための正しい実務ルールを社労士が解説します。

 

1. なぜ「修理代の給与天引き」が致命的なリスクになるのか

結論から申し上げます。

社員に過失があったとしても、発生した損害賠償金(修理代)を会社の判断で給与から差し引くことは、原則として労働基準法違反となります。

会社に損害を与えたのだから、給料で相殺するのは当然だという一般社会の常識は、労働法においては通用しません。

給与からの無断天引きを行えば、本来は社員側に落ち度があったはずの事故トラブルが、「会社による違法な賃金未払い事件」になり労働基準監督署の指導対象となってしまいます。

具体的にどのような法律に抵触するのか、2つの重要なNGルールを確認しましょう。

 

2. 労働基準法に抵触する「2つの重大なNGルール」

社員への損害賠償請求と給与計算を絡めることは、以下の法律に真っ向から違反するリスクを伴います。

 

① 賃金全額払いの原則(労基法第24条)違反

出張旅費の精算時にも触れましたが、給与は「全額を支払うこと」が絶対原則です。

たとえ社員が起こした事故の修理代でも、会社の持つ「債権(払ってほしいお金)」と、社員の持つ「賃金(もらう権利)」を相殺することは法律で禁じられています。

 

② 賠償予定の禁止(労基法第16条)

社用車で事故を起こしたらペナルティとして、一律〇〇円を給与から引くということを、あらかじめ就業規則や誓約書に定めておくことは違法です。

労働基準法では、違約金や損害賠償額を「事前に決めておくこと」を禁じており、このようなルール自体が無効となります。

これらの基本を踏まえた上で、地域ならではの実情と「負担割合」について見ていきましょう。

 

3. オホーツクの雪道リスクと「会社の負担割合」

「天引きがダメなら、給料とは別に修理代の全額(100%)を社員に現金で請求すればいいのでは?」と考えるかもしれませんが、ここにも大きな落とし穴があります。

 

会社は「100%全額」を請求できないケースがほとんど

過去の裁判例(報償責任の法理)では、業務中の事故や破損について、社員に100%全額の賠償を認めることは稀です。

会社は社員を働かせて「利益」を得ている以上、そこから発生する「リスク(事故やミス)」も会社が一定程度負担すべき、という考え方があるからです。

特にオホーツク地域のように、冬期の雪道運転が業務上必須となる環境では、通常の不注意(軽過失)によるスリップ事故などにおいて、社員へ請求できる割合は制限されるケースが一般的です。

(※飲酒運転や明らかな故意、重大なルール違反など「重過失」の場合は除きます)

このような法的な背景を考慮し、NGな対応と正しい対応を比較してみましょう。

 

4. 違法な天引きと適法な損害賠償の徹底比較

会社を守るためには、どのような対応が正解なのかを比較表で整理します。

比較項目 違法となるNG対応(天引き・全額請求) 適法となる正しい対応(個別精算・協議)
給与の処理 給与から修理代を勝手に天引きして相殺する 給与は全額そのまま支払い、一切手を加えない
請求額の決定 修理代の100%を一方的に全額負担させる 過失割合を考慮し、現実的な負担額を労使で協議する
支払いの方法 事前のルール(誓約書など)に基づき自動徴収 双方合意の上で、別口座への振込や現金で支払ってもらう
会社側のリスク 労基署からの指導、未払い賃金としての訴訟リスク 法的なリスクを完全に排除し、クリーンに解決できる

このように、出張費の精算と同様に「給与の支払い」と「損害賠償の請求」は完全に別物(完全分離)として処理することが、最大の企業防衛となります。

では、具体的にどのように話を進めればよいのか、実務フローを確認しましょう。

 

5. 修理代を適法に請求・精算するための実務フロー

トラブルをこじらせず、適法に修理代の一部を負担してもらうための手順です。

ステップ 具体的な行動とポイント
① 事実確認と給与支給 事故や破損の状況を客観的に記録する。【重要】この月の給与は、天引きせず「全額」を期日通りに支払う
② 負担割合の協議 社員の過失度合い(不注意か、悪質なルール違反か)を踏まえ、会社と社員で負担割合を協議する。
③ 合意書の作成 決定した賠償金額について、「損害賠償に関する合意書」を作成し、双方で署名・捺印する。
④ 支払い(個別精算) 社員から会社の指定口座へ振り込んでもらう(または現金で受け取る)。金額が大きい場合は、無理のない分割払いを認める。

給与計算をいじることなく、独立した「賠償契約」として処理することで、法律問題をクリアにすることができます。

ここで、よくある疑問についてお答えしていきます。

 

6. 車両・備品破損トラブルに関するよくある質問(Q&A)

多くの経営者や経理担当者が直面しやすいポイントをまとめました。

 

Q. 本人が「給料から分割で引いてください」とお願いしてきた場合は?

本人の申し出であっても、給与天引きはやめてください。

後になって「社長に逆らえなくて仕方なく同意した」と主張された場合、その同意は無効と判断されるリスクがあるからです。

 

Q. 自動車保険(車両保険)を使った場合、免責金額や保険料のアップ分は請求できますか?

これらも「会社に生じた損害」の一部として、協議の対象にはなりますが100%の請求は困難です。

実務上は「車両保険を使い、数万円の免責金額(自己負担分)だけを社員に負担してもらう」といった形で落ち着くケースがあります。

 

Q. 事故を起こした社員を懲戒処分(減給など)にすることはできますか?

就業規則に「重大な過失により会社に損害を与えた場合は懲戒処分とする」旨の規定があれば可能です。

ただし、労働基準法の「減給の制裁の制限」という厳しい上限を守る必要があり、賠償金の請求と懲戒処分は別物である点に注意が必要です。

それでは、本記事の要点をまとめます。

 

7. まとめ:車両・備品管理も「給与と切り離す」のが鉄則

社員が起こした事故などで給与から修理代を天引きすることは、会社側が「労働基準法違反」というリスクがあります。

出張費の処理でもお伝えした通り、給与は「労働の対価」として全額を支払い、損害賠償は「別問題」として個別に協議・精算する。

この「完全分離」のルールを徹底することが、無用な労務トラブルから会社を守る確実な対応となります。

「今までどんぶり勘定で給与から引いていた」「事故時のルールが就業規則に書かれていない」と不安を感じたら、まずは専門家へ自社の労務管理フローの診断をご相談ください。

給与計算は会社のリスク管理そのものです。まずは自社の状況をチェックしてみてくださいね。

 

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