トラブル対策

「給与が少ない」と労働基準監督署に駆け込まれた!調査が入る前の初期対応実務

 

ある日突然、会社宛てに労働基準監督署から「従業員の賃金についてお尋ねしたいことがあります」と書面の通知や電話が来たらどうしますか?

従業員が辞め際に労基署に駆け込んだな!と感情に任せて初動対応を誤ると、単なる計算ミスが「悪質な労働基準法違反」として扱われ、企業としての信用を失う事態に発展します。

本記事では、労基署から調査の連絡が来た際の正しい初期対応について社労士が解説します。

 

1. なぜ従業員は「給与が少ない」と労基署へ行くのか?

労基署に調査に入られる(申告される)原因のほとんどは、経営者と従業員の間にある「給与計算の認識のズレ」です。

特に、以下の3つのパターンが頻発しています。

 

① 残業代の未払い(固定残業代の運用ミス)

「うちは手当に残業代を含めているから払わなくていい」と経営者が思い込んでいても、就業規則や給与明細で「何時間分の残業代か」が明確に区分されていなければ、労基署はそれを残業代とは認めません。

結果として、基本給の一部とみなされ未払い残業代が発生します。

 

② 違法な給与天引き(相殺)

過去の記事でも解説した通り、「出張の仮払い残金」や「備品を壊した修理代」を、労使協定や明確な同意なく給与から引いてしまうケースです。

給与明細を見た従業員が「勝手に引かれた、給与が少ない」と不満を持ち、明細書を握りしめて労基署へ向かいます。

 

③ タイムカードの「丸め処理」

「15分未満の労働時間は切り捨てて計算する」といった処理を毎月行っている場合、これは完全な違法行為です。

労働時間は原則として1分単位で計算しなければならず、切り捨てられた時間が「賃金未払い」として申告されます。

これらの火種に対し、労基署から連絡が来た際の対応を比較してみましょう。

 

2. 労基署からの連絡に対する「NG対応」と「適法な対応」

初動の対応を誤ると、労基署の監督官からの心証が最悪になり、調査がさらに厳しくなります。

比較項目 絶対にやってはいけないNG対応 会社を守るための正しい対応
調査の呼び出し 忙しいと理由をつけて無視・放置する 指定された日時に必ず応じる(日程変更の相談は可)
従業員への接触 「あなたが申告したのか」と本人を問い詰める 誰が申告したかを探らず、冷静に自社の計算ミスを疑う
書類の取り扱い 書類やタイムカードを改ざんする ありのままの記録を揃え、間違いがあれば素直に認める
監督官への態度 「昔からこのやり方」と独自のルールを主張する 労働基準法を理解し、改善する姿勢(誠意)を見せる

特に「書類の改ざん」は犯罪行為(虚偽報告)となり、是正勧告(指導)にとどまらず、最悪の場合は逮捕・送検されるリスクがあるため絶対にやってはいけません。

では、調査に応じる前に、社内で何を準備すべきかを確認しましょう。

 

3. 調査前に必ず確認すべき「法定三帳簿」のセルフチェック

労基署の調査では、必ず「法定三帳簿」と呼ばれる労務管理の基礎資料の提出を求められます。

調査当日までに、以下のポイントを社内で徹底的に洗い出してください。

確認すべき書類 チェックポイント(監督官はここを見る)
① 労働者名簿 氏名、生年月日、雇入年月日などが最新の状態で記載されているか。
② 賃金台帳 基本給と手当が明確に分かれているか。労働日数、労働時間数(残業・深夜・休日)が正確に記載されているか。違法な天引き項目はないか。
③ 出勤簿・タイムカード 出退勤の打刻が1分単位で残っているか。手書きの場合、本人の押印等で客観性が担保されているか。

もし事前のチェックで「確かに残業代の計算が間違っていた」「天引きのルール違反があった」と発覚した場合は、「速やかに不足分を再計算し、支払います」と自ら申告するのが最も賢明な対応です。

ここで、経営者が抱きやすい疑問についてお答えします。

 

4. 労基署の調査に関するよくある質問(Q&A)

 

Q. 誰が労基署に駆け込んだ(申告した)のか、教えてもらえますか?

A. 労基署は原則として「誰が申告したか」を会社に教えることはありません。

労働基準監督官には守秘義務があり、申告者の不利益を避けるため伏せられます。

犯人探しをして本人に圧力をかけたり、不利益な扱い(解雇や減給など)をしたりすることは、法律で固く禁じられておりさらに重い罰則を受けることになります。

 

Q. 調査の結果、未払いが発覚したらすぐに逮捕されたり、罰金を払ったりするのですか?

A. いきなり逮捕・処罰されることは稀です。まずは「是正勧告書」が交付されます。

労基署の目的は「正しい状態に改善させること」です。違反が発覚した場合、「〇月〇日までに未払い分を計算して支払いなさい」という指導(是正勧告)が行われます。

これに誠実に従い、期日までに支払いを完了して「是正報告書」を提出すれば、通常はそこで完了となります。

無視や隠蔽を続けた場合のみ、強制捜査等の厳しい措置に移行します。

 

Q. 退職して何ヶ月も経っている元従業員の未払い給与も払う必要がありますか?

A. はい、支払う必要があります。(賃金請求権の時効は現在3年です)

在職中はもちろん、退職した元従業員であっても、過去3年分(本来の法律上は5年ですが、当面の間は3年とされています)に遡って未払い賃金を請求する権利があります。

そのため、過去の賃金台帳やタイムカードの保管義務(原則5年、当面3年)も厳格に定められています。

それでは、本記事の要点をまとめます。

 

5. まとめ:労基署調査を乗り切る鍵は「誠実さ」と「完全分離の徹底」

従業員に「給与が少ない」と労基署へ駆け込まれる事態は、経営者にとって非常に耳が痛い問題です。

タイムカードや賃金台帳など「ありのままの事実」を整え、ミスがあれば認めて速やかに不足分を精算する「誠実な対応」こそが、企業へのダメージを最小限に抑える唯一の手段です。

そして何より重要なのは、「そもそも駆け込まれないための給与計算体制」を作ることです。

これまでお伝えしてきた通り、経費精算や損害賠償を給与と混ぜない「完全分離」のルールや、正しい残業代計算を徹底することが、会社を守る最強の防波堤となります。

「労基署から調査の通知が来てパニックになっている」「うちの給与台帳を見られるのが不安だ」と感じたら、一人で悩まず、調査当日を迎える前に直ちに専門家(社労士)へご相談ください。

 

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