基礎知識

副業社員がいる場合の給与計算と雇用保険の正しい取り扱い

 

従業員の多様な働き方が広がる中、副業や兼業を希望するスタッフを抱える企業が増加しています。

社労士という観点から最新の法令に基づき、道内企業の労務管理について解説します。

特に広大な面積を持つ北海道では、本業のほかに季節ごとの仕事を持つ方も珍しくありません。企業を守り、従業員が安心して働ける環境を作るための正しい知識を整理していきましょう。

 

1. 導入:副業社員の労務管理がなぜ今、北海道の企業にとって重要なのか

結論から言いますと、副業社員の労務管理を怠ることは、企業にとって想定外の割増賃金(残業代)支払いリスクや、雇用保険の加入漏れによる法令違反リスクに直結します。

理由は、労働基準法によって「労働時間は事業場を異にする場合においても通算する」と定められているためです。

つまり、自社と副業先の両方で働いた時間を足し合わせて、法定労働時間の枠に収まっているかを管理しなければなりません。

例えば、北見市内の企業で週40時間働いている従業員が、週末に別の会社でアルバイトをした場合、そのアルバイト時間はすべて時間外労働として割増賃金の対象となる可能性があります。

副業先での労働だから自社には関係ない、という解釈は通用しません。

副業を容認することは、従業員のスキルアップや定着率向上につながる一方で、給与計算と保険手続きのルールを正確に把握しておくことが、企業防衛の観点から非常に重要となります。

 

2. 詳細解説:労働時間の通算と雇用保険の仕組み

労働基準法に基づく労働時間の通算

労働基準法第38条第1項において、労働時間は事業場を異にしても通算されることが明記されています。厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」でも、労働時間管理の厳格化が求められています。

自社が「先」に雇用契約を結んだのか、「後」から雇用契約を結んだのかによって、割増賃金の支払い義務を負う企業が変わるというルールがあります。

社労士の視点からは、雇用契約時の確認フローを徹底することが不可欠だと考えます。

 

雇用保険の加入要件(原則と特例)

雇用保険については、労働時間のように「通算」して加入するわけではありません。

原則として、複数の事業所で働いている場合、生計を維持している主たる事業所(最も給与が多い、または労働時間が長い事業所)でのみ加入します。

ただし、令和4年1月より「雇用保険マルチジョブホルダー制度」が新設されました。

これは、65歳以上の労働者が複数の事業所で勤務し、1つの事業所では週20時間未満であっても、2つの事業所の労働時間を合計して週20時間以上になる場合、本人の申出により雇用保険に加入できる特例制度です。

 

所得税の源泉徴収ルール(甲欄と乙欄)

給与計算において忘れてはならないのが源泉所得税の扱いです。「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」は1か所の会社にしか提出できません。

提出されている主たる職場では税額表の「甲欄」で計算し、提出されていない副業先では割高な「乙欄」で計算しなければなりません。

 

項目 労働基準法(労働時間・残業代) 雇用保険法(加入義務) 所得税法(源泉徴収)
複数勤務先の扱い すべての事業所の労働時間を通算する 原則として主たる事業所1か所のみで加入 主たる職場(甲欄)、副業先(乙欄)に分ける
割増・保険料の発生 通算して法定労働時間を超えた場合に割増賃金が発生 主たる事業所の給与に対してのみ雇用保険料を控除 乙欄適用となる副業先の給与は高い税率で源泉徴収

 

3. 北海道・オホーツク特有の注意点

広大な移動距離と通勤手当の課税ルール

オホーツク管内は非常に広大です。たとえば、平日は網走市内のオフィスで働き、週末は遠軽町の農業法人で副業をするといったケースも考えられます。

この場合、通勤距離が長くなる傾向がありますが、通勤手当の非課税限度額は「1か月の総通勤回数や距離」に基づいて国税庁の基準に従い正しく計算する必要があります。

マイカー通勤が必須の地域だからこそ、交通費をどちらの会社がどう負担し、どこまでを非課税とするか、就業規則で明確にしておくことが求められます。

 

季節雇用と地域別最低賃金

斜里町や清里町などで見られる季節ごとの農繁期アルバイトや水産加工業など、短期間の副業を行う従業員も多く存在します。

北海道の地域別最低賃金は毎年改定されますが、副業先での時給設定はもちろん、本業での月給を時間換算した際に最低賃金を下回っていないか、定期的なチェックが必要です。

一時的な繁忙期の応援であっても、最低賃金割れは労働基準法第24条違反となるため注意が必要です。

 

冬期手当(燃料手当)の扱い

北海道ならではの制度として冬期手当(燃料手当)があります。

労働基準法第11条の賃金に該当しますが、残業代の計算基礎から除外できるかどうかが論点となります。

家族数に応じて支給される属人的な燃料手当であれば除外可能(労働基準法第37条第5項)ですが、単身者含め一律支給の場合は割増賃金の計算基礎に含めなければなりません。

 

4. 比較・費用の可視化(自社管理と専門家への委託)

副業社員が増えると、給与計算の工数は飛躍的に増加します。労働時間の通算や保険加入の有無を自社で毎月確認する労力と、専門家に任せる場合の比較をまとめました。

 

比較項目 自社で内製化する場合 社労士などへ外注する場合
金銭的コスト 担当者の人件費のみ(表面上は安価) 毎月の委託費用が発生する
正確性と法令遵守 法改正のキャッチアップに漏れが生じやすい 常に最新の法令に基づく正しい計算が担保される
リスク管理 残業代の計算ミスや保険加入漏れリスクが高い 労働時間の通算など複雑な処理も正確に反映可能

 

事業規模が拡大し、多様な働き方を受け入れるフェーズに入った際には、専門的見地から給与計算の外部委託は有効な選択肢の一つとなると考えます。

 

5. 実践:具体的な計算例やシミュレーション

ここでは、労働時間を通算した際の具体的な残業代計算のシミュレーションを行います。

 

前提条件

  • 自社(A社・先契約):所定労働時間 1日7時間(月〜金で週35時間)
  • 副業先(B社・後契約):所定労働時間 1日3時間(土のみ勤務)

この従業員は、A社で週35時間働いています。その後、土曜日にB社で3時間働きます。労働時間を通算すると、週の合計労働時間は38時間となります。

法定労働時間の「週40時間」以内であるため、B社での3時間の労働に対する給与は、割増のない通常の賃金で計算されます。

 

B社で労働時間が延びた場合のシミュレーション

B社での労働時間 通算労働時間(A社35時間+B社) 割増賃金の発生有無(B社での支払い義務)
3時間 38時間 なし(通常の時給のみ)
5時間 40時間 なし(通常の時給のみ)
8時間 43時間 週40時間を超える「3時間分」に25%の割増賃金が発生

 

このように、自社での労働時間が短くても、他社での労働時間を合算することで割増賃金が発生する仕組みを理解しておくことが重要です。

後から雇用契約を結んだB社に、割増賃金の支払い義務が生じるのが原則です。

 

6. リスクと対策

給与計算や労働時間管理を誤った場合のリスクは決して小さくありません。

 

労働基準法違反による罰則

労働時間を適正に把握せず、結果として割増賃金が未払いとなった場合、労働基準法第37条違反となり、同法第119条の規定により「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科されるおそれがあります。

 

雇用保険の未加入リスク

本来加入すべき従業員を雇用保険に加入させていなかった場合、雇用保険法第83条に基づき罰則が科される可能性があります。

また、従業員が離職した際に失業給付を受け取れないという甚大な不利益をもたらし、労使間の重大なトラブルに発展します。

 

健康被害と安全配慮義務違反

長時間の副業により従業員が過労で倒れた場合、労働契約法第5条が定める「安全配慮義務」に違反したとして、企業が損害賠償を請求されるリスクもあります。

社労士の視点からは、従業員が副業を開始する前に「副業・兼業に関する届出制度」を社内に設けることを強く推奨します。

届出によって他社での労働日や労働時間を事前に把握し、自社の労働時間と合わせて法定労働時間を超えないようシフトを調整する等の対策が、企業と従業員の双方を守ることにつながります。

 

7. よくある質問(Q&A)

Q1. 副業先で労災事故に遭った場合、自社の労災保険は使えますか?

A. 労災保険は、原則として事故が発生した事業場の保険が適用されます。副業先での業務中や通勤中の事故であれば、副業先の労災保険を使って給付を受けることになります。

ただし、令和2年の法改正により、複数事業所で働く労働者の休業補償などは、すべての事業所の賃金を通算して給付額が決定される仕組みに変わりました。

ここで1つ疑問が出てきますよね。

それは、合算して給付が増えたら、会社の労災保険料(メリット制)も上がってしまうのでは?という点です。

この場合、保険料は上がりません。

給付が増えた分(他社の賃金分)は、メリット制の計算(収支率)からは除外される仕組みになっています。この制度は、労働者の給付水準を確保するための改正であって、保険料負担まで各社に按分する制度ではありません。

したがって、他社で起きた労災の責任まで、会社が負わされることはないので、安心して副業を応援してあげてください。

 

Q2. 従業員が内緒で副業をしており、労働時間が通算で週40時間を超えていました。自社に割増賃金の支払い義務はありますか?

A. 労働者が副業を秘匿していた場合、企業側が他社での労働時間を把握することは事実上不可能です。厚生労働省のガイドラインでも、労働者からの申告によって労働時間を把握することが基本とされています。

申告がなかったために割増賃金を支払えなかった場合、直ちに企業側が法的な責任を問われる可能性は低いと解釈されますが、就業規則で副業の届出を義務化しておくことが自己防衛の第一歩です。

 

Q3. 社会保険(健康保険・厚生年金)も雇用保険と同じように主たる事業所のみの加入ですか?

A. いいえ、異なります。

社会保険の場合、それぞれの事業所で加入要件(週の所定労働時間など)を満たしているかを確認します。

もし2つの事業所の両方で加入要件を満たした場合は、両方で被保険者となり、「二以上事業所勤務届」を年金事務所へ提出する必要があります。

その上で、給与額を合算して標準報酬月額を決定し、給与の比率に応じて両社で保険料を按分して納付します(健康保険法第44条、厚生年金保険法第24条等)。

 

まとめ

本日は、副業社員がいる場合の給与計算や雇用保険の取り扱いについて、労働時間の通算ルールや北海道ならではの注意点を交えて解説いたしました。

働き方の多様化は企業に新たな活力を与えますが、同時に労務管理の複雑化という課題をもたらします。

オホーツク地域の企業がこの先も共に力強く発展していくためには、法令を遵守した強固な土台作りが欠かせません。

割増賃金の未払いや保険の加入漏れは、企業の信用を揺るがす大きなリスクとなります。

給与計算は会社のリスク管理そのものです。まずは自社の状況をチェックしてみてくださいね。

 

-基礎知識