企業の最も重要な資産である、従業員に関する氏名や住所からマイナンバーに至るまで、給与計算には究極の個人情報が密集しています。
給与計算を外部委託したいけれど、従業員の大切な情報を社外に出すのは、不安という経営者の方は多いと思います。
本記事では、従業員情報を守るための法的根拠と、給与計算代行のセキュリティ体制を見極めるポイントを解説いたします。
1. 外部委託におけるセキュリティ不安への結論と理由
まず、適切な基準を満たした社会保険労務士などの専門家に委託する方が、社内で管理するよりも情報漏洩のリスクを劇的に下げることが可能です。
その理由は、専門家は法律に基づく厳格な守秘義務を負いながら、専用の高度なセキュリティシステムを導入して業務を行っているためです。
例えば、社内でエクセルと紙の明細を使って給与計算をしていると、担当者の机の上から他の従業員に給与額を知られてしまうという内部漏洩のリスクが常に伴います。
外部の専門家に委託して、クラウドシステムなどで暗号化通信を行えば、こうした物理的な漏洩リスクや社内の人間関係に起因するトラブルを根本から断ち切ることができます。
2. マイナンバーと給与情報を守る法的根拠と仕組み
従業員の個人情報を保護する、最大の法的根拠は個人情報保護法であり、企業は従業員の同意を得た利用目的の範囲内で安全にデータを管理する義務があります。
さらに給与計算を社会保険労務士に委託する場合、社会保険労務士法第21条に定められた非常に重い守秘義務が適用されます。
この法律により、業務上知り得た秘密を漏らした場合、厳しい罰則や業務停止などの処分が下されるため、専門家は情報の取り扱いに細心の注意を払っています。
給与計算業務では、マイナンバー(個人番号)を取り扱うことも多くなっています。
行政手続きにおける、特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(マイナンバー法)に基づき、委託先に対しても企業と同等の厳格な安全管理措置が義務付けられています。
3. 北海道の企業が扱う機密性の高い地域特有のデータ
北海道の企業が給与計算を行う際、地域特有の手当を支給するために、非常に機密性の高い個人情報を集める必要があります。
オホーツク管内の北見市や遠軽町などで、支給される冬期手当(燃料手当)はその代表例であり、手当の金額を決めるために従業員が世帯主であるか、扶養家族が何人いるかといった詳細な家族構成データを企業が把握しなければなりません。
また、広大な面積を持つ北海道では通勤距離が数十キロメートルに及ぶことも珍しくなく、通勤手当の非課税限度額を正確に計算するために、自宅から勤務先までの詳細な経路図や地図情報を厳重に管理する必要があります。
斜里町などの観光業や農業における、季節雇用者の頻繁な入退社データも含め、これら膨大な個人情報を社内の金庫やパソコンだけで、安全に守り切るのは非常に困難な時代となっています。
4. 社内処理と外部委託のセキュリティリスク比較表
給与計算を自社で行う場合と、専門家に外注する場合のセキュリティリスクの違いを比較表で整理します。
| 項目 | 自社で計算(内製) | 専門家に外注 |
|---|---|---|
| 内部漏洩のリスク | 高い(担当者の不注意や社員の覗き見が発生しやすい) | 極めて低い(社内の人間がデータに触れる機会が減る) |
| データの紛失・盗難 | 高い(USBメモリの持ち出しやパソコンの紛失による) | 低い(クラウド上の安全なサーバーで一元管理される) |
| サイバー攻撃対策 | 不十分になりがち(専任のIT担当者がいない場合が多い) | 万全(最新のセキュリティシステムが導入されている) |
| 法的責任の所在 | すべて自社が負う | 契約に基づき委託先と責任を分担できる |
5. 網走市の企業を想定した情報漏洩の損害シミュレーション
網走市にある従業員50名の水産加工業の企業をモデルケースとして、万が一情報漏洩が起きた場合の損害を具体的な数値でシミュレーションしてみましょう。
条件:
・従業員数:50名
・発生した事案:社内の給与計算担当者が、マイナンバーと全従業員の給与データが入ったUSBメモリを紛失した。
損害の計算:
従業員1人あたり10,000円のお詫び金を支払うとした場合、50名で500,000円の直接的な出費となります。
しかし本当の恐ろしさは金銭的被害ではなく、自分の給与額や口座情報が漏れたことに対する従業員の会社への不信感です。
この不信感は計り知れず、最悪の場合は集団離職を引き起こして、事業の継続自体が困難になるという致命的な二次被害をもたらす恐れがあります。
6. 委託先を選ぶためのセキュリティ体制チェックポイント
大切な従業員情報を預ける代行会社を選ぶ際、必ず確認すべきセキュリティのチェックポイントは以下の3点です。
- セキュリティ認証の取得:プライバシーマークやISO27001(ISMS)などの国際的な情報セキュリティ認証を取得しているかを確認し、客観的な安全性の担保を求めます。
- データの受け渡し方法:エクセルファイルをパスワード付きのメールで送受信するような古い手法は誤送信のリスクが高いため、安全なクラウドストレージや専用の暗号化通信システムを使用しているかを確認します。
- 業務委託契約書と機密保持条項:契約書の中に個人情報の取り扱いや損害賠償に関する機密保持条項(NDA)が明確に記載されているかを契約前に精査し、責任の所在をはっきりさせます。
7. 従業員情報の外部委託に関するよくある質問(Q&A)
Q1. 給与計算を委託する場合、マイナンバーも渡さなければなりませんか?
給与計算の代行のみを委託する場合は、必ずしもマイナンバーを渡す必要はありません。
しかし、社会保険や雇用保険の資格取得手続き、年末調整や源泉徴収票の作成なども併せて社会保険労務士に委託する場合、行政への申告にマイナンバーが必須となるため、安全な方法で提供していただく必要があります。
Q2. 代行会社の従業員が情報を持ち出してしまうリスクはありませんか?
信頼できる代行会社であれば、従業員に対する徹底した機密保持教育に加えて、システムへのアクセス権限の制限や操作ログの監視などを行い、情報の持ち出しを物理的およびシステム的に防ぐ対策を講じています。
契約前にどのような内部統制が行われているかを確認することが重要です。
Q3. 退職した従業員のデータは委託先でどう扱われますか?
労働基準法第109条により、企業は賃金台帳などの労働関係に関する重要な書類を5年間(当分の間は3年間)保存する義務があります。
委託先とはこの法定保存期間が経過した後に、データを適切に破棄または削除する取り決めをあらかじめ交わしておくことで、不要な情報が外部に残り続けるリスクを防ぎます。
8. まとめ
従業員の個人情報を社外に出すことに対して、不安を感じるのは経営者として当然の心理です。
しかし、現代の複雑化するサイバー攻撃や内部不正のリスクを考慮すると、セキュリティの専門知識を持たない社内のパソコンで管理することの方が、実は大きなリスクがあります。
給与計算のアウトソーシングは、単に計算の手間を省くためのものではありません。
北海道の厳しい自然環境の中で、地域経済を支えるオホーツクの企業の皆様が、従業員のプライバシーという大切な資産をより安全な金庫に移し替えるための積極的な防衛策です。
家族構成や通勤経路といった、デリケートな情報が集まる地域特有の労務管理だからこそ、社会保険労務士という国家資格に裏打ちされた高度な守秘義務と、最新のセキュリティシステムを備えた専門家の力を活用してください。
強固な情報管理体制を築くことが、従業員からの揺るぎない信頼を獲得し、企業がさらに成長していくための確固たる土台となります。
給与計算は会社のリスク管理そのものです。まずは自社の状況をチェックしてみてくださいね。