トラブル対策

うつ病で休職した社員の給与はどうなる?傷病手当金と社会保険料の扱い

 

社員の健康問題は突然やってきます。

経営者として社員を守りつつ、会社のリスクを最小限に抑え、私たちの大切なオホーツクの企業を共に元気にしていけるよう、社会保険労務士の視点から詳しく解説いたします。

 

1. うつ病休職時の給与と社会保険料についての結論

まず、うつ病などの精神疾患や私傷病で休職する社員に対する給与は、会社の就業規則(賃金規程)に特段の定めがない限り、原則として無給となります。

その代わり、社員の生活を支えるセーフティネットとして、加入している健康保険から「傷病手当金」が支給される仕組みとなっています。

なぜ給与が無給になるかというと、民法第624条等の「ノーワーク・ノーペイの原則」が適用されるからです。

これは、労働者が労務を提供していない期間は、使用者は賃金を支払う義務を負わないという大前提です。

例えば、北見市内の企業で事務職を担当する社員が、うつ病の療養のために1ヶ月間休職した場合、その月の基本給や職務手当などの各種手当は支給されません。

しかし、ここで経営者や担当者が最も注意するのが、給与が無給であっても「社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)の支払いは免除されない」という事実です。

産前産後休業や育児休業の期間とは異なり、私傷病による休職では、会社負担分も本人負担分も継続して発生します。

したがって、休職中の社員から毎月発生する社会保険料をどう徴収するのかを、休職に入る前に明確にルール化することが、企業の労務管理において重要となります。

 

2. 傷病手当金と社会保険料の仕組み・根拠

ここでは傷病手当金の支給条件、そしてなぜ社会保険料を支払い続けるのか、法令等をもとに根拠を整理します。

 

傷病手当金の支給要件(健康保険法第99条)

健康保険法第99条の規定に基づき、以下の4つの条件をすべて満たした場合、被保険者に対して傷病手当金が支給されます。

  • 業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること(業務起因であれば労災保険の対象となります)
  • 仕事に就くことができない状態であること(医師の労務不能という診断が必要です)
  • 連続する3日間を含む4日以上仕事に就けなかったこと(最初の3日間は「待期期間」と呼ばれ、支給対象外です)
  • 休業した期間について給与の支払いがないこと(もし給与が一部支給された場合でも、その支給額が傷病手当金の額より少なければ、その差額が支給されます)

 

社会保険料の継続徴収の根拠

厚生年金保険法第81条および健康保険法第156条により、社会保険の被保険者資格が存続している限り、事業主および被保険者は毎月の保険料を納付する義務を負います。

 

項目 休職中の扱い 根拠となる法令・原則
給与(基本給・諸手当) 原則無給(会社の就業規則に準ずる) 労働基準法(ノーワーク・ノーペイの原則)
傷病手当金 支給あり(4つの要件を満たす場合) 健康保険法第99条
社会保険料 免除なし(労使ともに毎月負担継続) 健康保険法第156条、厚生年金保険法第81条

 

3. 北海道特有の注意点:冬期手当と通勤手当の扱い

北海道の企業、特に冬の寒さが厳しいオホーツク地域では、本州には見られない独自の労働慣行や手当が存在します。

これらが休職中の給与計算において、どのような影響を及ぼすのか確認しておく必要があります。

 

冬期手当(燃料手当)の支給要件の確認

北海道内においては、毎年10月から11月頃にかけて、暖房費を目的に冬期手当や燃料手当を支給する企業が数多く存在します。

冬期手当などは、遠軽町の建設業や美幌町の運送業などにおいても広く導入されており、従業員の冬場の生活を支える非常に重要なものです

ここで問題となるのが、うつ病等で長期間休職している社員に対して、冬期手当を支給する義務があるのかという点です。

結論としては、会社の「就業規則(賃金規程)」の定めになります。

もし賃金規程に「休職中の者には支給しない」「支給日在籍者のみに支給し、休職者は除外する」といった規定が存在しない場合、休職中でも満額を支給する法的義務が生じるリスクがあります。

無用な労使トラブルを防ぐためにも、休職者に対する一時金や恩恵的な手当の支給要件について、就業規則で明確に規定しておくことが不可欠です。

 

広大な通勤距離と通勤手当の取り扱い

オホーツク地域は、非常に広大な面積を有しています。

滝上町や網走市から隣接する町村へ長距離をマイカーで通勤している社員も珍しくはなく、結果として通勤手当の支給額が高額になる傾向があります。

毎月定額のガソリン代として支給している通勤手当は、休職して通勤していない期間はどのように扱うべきでしょうか。

日割り計算で控除して支給するのか、あるいは1ヶ月単位で完全に支給を停止するのか、あらかじめ賃金規程で細かく定めておく必要があります。

労働基準法第24条には賃金の全額払いの原則があるため、規定に記載のない会社都合による不当な控除は、法律違反となるため注意が必要です。

 

4. 社会保険料負担額の可視化:休職中の会社負担と本人負担

休職中も毎月確実に発生する社会保険料について、会社と本人が負担する金額を具体的に可視化してみましょう。

休職期間が数ヶ月から半年と長引くほど、企業のキャッシュフローに影響を与えていきます。

ここでは、標準報酬月額が300,000円の社員(40歳未満、介護保険第2号被保険者に非該当)が休職した場合、1ヶ月あたりの社会保険料の目安を表にして整理します。

※保険料率は協会けんぽ北海道支部の料率を参考に、健康保険料率10%、厚生年金保険料率18.3%と簡易的に計算しています

 

保険料の項目 本人負担額(月額) 会社負担額(月額) 合計納付額(月額)
健康保険料 15,000円 15,000円 30,000円
厚生年金保険料 27,450円 27,450円 54,900円
月額合計 42,450円 42,450円 84,900円

 

休職中は給与からの控除ができないため、本人負担分については、本人から会社へ振込してもらう方法や、会社が一時的に立替えて後日精算する方法などで対応するのが一般的です。

会社負担分を含めると、休職者1名につき毎月約8万5千円の法定福利費という固定費が発生し続けることを、経営者として正確に認識しておく必要があります。

 

5. 具体的な傷病手当金の計算例とシミュレーション

実際に社員が休職した際、傷病手当金をいくら受け取ることができるのか。

このような実務的な計算イメージを持つことは、病気で不安を抱える社員を安心させる上で非常に重要です。

 

傷病手当金の基本的な計算式

1日あたりの支給額 = (支給開始日以前の継続した12ヶ月間の各月の標準報酬月額を平均した額) ÷ 30日 × 3分の2

 

シミュレーション例

入社して3年目の社員(標準報酬月額が直近の12ヶ月間ずっと300,000円であったと仮定)が、うつ病と診断され1ヶ月間(30日間)休職した場合の支給額を計算してみます。

 

1日あたりの支給額:300,000円 ÷ 30日 × 2/3 = 6,667円(1の位は四捨五入します)

1ヶ月(30日分)の総支給額:6,667円 × 30日 = 200,010円

計算上、社員の口座には約20万円の傷病手当金が振り込まれることになります

 

しかし、ここから先ほど解説した社会保険料の本人負担分(約4万2千円)や、前年の所得に基づいて課税される住民税を支払わなければなりません。

傷病手当金は標準報酬月額を基に計算され、概ね給与の約3分の2程度が支給されます。

ただし、休職中でも社会保険料の本人負担分は、前年所得に基づく住民税の支払いは必要となるため、実際の手取り額は14万円〜15万円程度になるケースが多くなります。

この「手当金は入るが、引かれるものもある」ということを、休職に入る前に社員へ丁寧に説明することが、その後の金銭的なトラブルを未然に防ぐことになります。

なお、傷病手当金は非課税所得であり所得税・住民税は課税されません。

 

6. 休職中の給与計算におけるリスクと対策

うつ病による休職対応において、会社が陥りやすいトラブル事例と、それを回避するための有効な対策について解説します。

 

社会保険料の徴収漏れトラブル

休職により給与が無給となった場合、給与天引きで社会保険料を徴収することができなくなります。

会社が期日通りに立て替えて納付したものの、療養中の社員と徐々に連絡が取れなくなり、結果として本人負担分の回収が困難になる可能性もあります。

対策としては、休職に入る直前に「休職期間中の社会保険料等の負担と支払い方法に関する合意書」を書面で交わすことが必須です。

毎月指定日までに会社指定の銀行口座へ振り込んでもらうか、あるいは傷病手当金が振り込まれたタイミングで精算するなど、明確なルールを書面に残し双方が合意しておくべきです。

 

休職期間満了時の退職・解雇に関するリスク

就業規則で定められた休職期間が満了しても、健康状態が回復せず復職できない場合、通常は退職(自然退職または普通解雇)の扱いとなることが多いと思われます。

しかし、その休職の原因が万が一「長時間の過重労働やパワーハラスメントなどによる業務上の精神疾患」であると、労働基準監督署によって労災認定された場合は事態は一変します。

労働基準法第19条の規定により、業務上負傷し、または疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間は、(原則として)労働者を解雇することが厳格に禁じられています。

私傷病なのか業務起因なのかについては、非常に慎重な見極めが必要であり、少しでも判断に迷う事案が発生した場合は、速やかに専門家に相談することが会社を守るための最善の策となります。

 

7. よくある質問(Q&A)

Q1. 傷病手当金の申請手続きは、会社が行う義務があるのですか?

A. 傷病手当金の申請の主体はあくまで被保険者(社員本人)です。

しかし、申請書には「事業主の証明欄(勤務状況や給与の支払い状況)」と「担当医師の意見欄」が不可欠です。

したがって、社員が医師から証明をもらった申請書を会社に提出し、会社が事業主欄を記入した上で、本人の代わりに協会けんぽ等の保険者へ提出してあげるのが、一般的な運用であり、社員に寄り添った対応と言えます。

 

Q2. 休職中に賞与(ボーナス)の支給時期が到来した場合、支払う必要はありますか?

A. 賞与の算定対象となる期間に全く出勤していない場合、賞与を支給するかどうかは会社の賞与規程に委ねられます。

出勤日数や勤務成績に応じて減額計算するなど、規定が正しく整備されていれば、それに従って不支給または減額と計算します。

ただし、規定が曖昧で休職中であっても賞与を支給した場合には、通常通りその賞与額に対する社会保険料が控除されることになります。

 

Q3. 住民税も休職中に毎月徴収し続けなければならないのですか?

A. はい、その通りです。

住民税(特別徴収)は前年の1月から12月までの所得に対して課税された年税額を、翌年6月から翌々年5月までの12分割で毎月給与から天引きしているため、休職して給与がゼロになったとしても納付義務は消滅しません。

無給の月は給与から天引きできないため、本人が会社へ直接その額を振り込むか、市区町村に対して「給与所得者異動届出書」を提出し、普通徴収(本人あてに納付書が届き、直接納付する方法)へ切り替える手続きを行う必要があります。

 

まとめ

社員がうつ病等の精神疾患で休職した際の給与は、労働基準法に基づき原則無給となりますが、傷病手当金という国が用意したセーフティネットが存在します。

しかしながら、社会保険料や住民税の納付義務は休職中も継続するため、事前のルール作りと本人への丁寧な説明が不可欠です。

特に北海道の企業においては、冬期手当や長距離の通勤手当の取り扱いなど、地域事情に合わせた独自の就業規則の整備が求められます。

給与計算の正確な運用と事前のリスク管理は、企業防衛そのものです。

大切な社員が安心して療養に専念でき、かつ会社も無用な金銭負担や労使トラブルを抱え込まないよう、適切な仕組みを構築していきましょう。

給与計算は会社のリスク管理そのものです。まずは自社の状況をチェックしてみてくださいね。

 

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