基礎知識

60歳・65歳・70歳到達月の給与計算!社会保険や雇用保険料免除のタイミング

 

オホーツク管内の中小企業では、ベテラン社員が60代、70代で活躍している会社が数多くあります。

しかし、従業員が特定の年齢(60歳・65歳・70歳)の誕生日を迎える月、給与計算では「社会保険料や雇用保険料の控除変更」という作業が発生します。

給与ソフトを使っているから油断していると、保険料を多く引きすぎたり、逆に徴収漏れなどのトラブルになりかねません。

本記事では、給与計算担当者が気を付ける「シニア社員の年齢到達月」の処理ルールなど社労士が徹底解説します。

 

1. 【大前提】法律上の年齢は「誕生日の前日」に年を取る

給与計算を解説する前に、知っておくべき原則があります。

法律上、人は「誕生日の前日」の午後12時に年齢が加算されると定められています。

例1 4月15日生まれの人は、4月14日に年齢到達となる。
例2 4月1日生まれの人は、3月31日に年齢到達となる。(※ここがポイント!)

 

4月1日生まれの人は「3月」に年を取ったとみなされます。社会保険料の変更タイミングが他の4月生まれの人よりも「1ヶ月前倒し」になります。

この「1日生まれの罠」を理解した上で、各年齢のルールを見ていきましょう。

 

2. 【64歳・65歳】介護保険料の終了と雇用保険の勘違い

 

① 「64歳以上の雇用保険料免除」はすでに廃止されています!

昔から給与計算をやっているベテラン経理担当者が最も陥りやすいミスです。

「64歳以上の従業員は雇用保険料が免除される」という特例がありましたが、法改正により令和2年(2020年)4月に完全に廃止されています。

現在は「65歳以上・70歳以上」であっても、雇用保険の加入条件(週20時間以上など)を満たして働いている限り、年齢に関係なく全従業員から雇用保険料を控除しなければなりません。

「昔のルールのまま免除し続けていた」という事態が発覚すると、過去に遡って会社が保険料を負担することになります。

 

② 【65歳到達】介護保険料の天引きが「ストップ」する

40歳から給与天引きが始まっていた「介護保険料」ですが、65歳に到達した月(誕生日の前日が属する月)から、給与からの控除が終了します。

65歳以降は「第1号被保険者」となり、市区町村から本人の自宅に直接納付書が届くか、受給する年金から天引きされる仕組みに変わるためです。

 

【実務の計算例:翌月控除の会社の場合】

4月15日が65歳の誕生日の場合、4月14日に65歳に到達します。

そのため、「4月分の社会保険料」から介護保険料が不要になります。(翌月控除の場合は「5月に支払う給与」から介護保険料の天引きを外します)。

 

3. 【70歳・75歳】年金と健康保険の卒業タイミング

 

① 【70歳到達】厚生年金保険料の天引きが「ストップ」する

現役で働き続けていても、70歳に到達した月(誕生日の前日が属する月)で、厚生年金保険の被保険者資格を喪失します。

つまり、70歳到達月からは「厚生年金保険料」の給与天引きをストップします。(健康保険料の控除は続きます)。

※ただし、70歳以降も働き続ける場合、年金事務所へ「70歳到達届」などの手続きが必要になるケースがあるため、忘れずに処理を行いましょう。

 

② 【75歳到達】健康保険料の天引きが「ストップ」する(※超重要ポイント)

75歳になると会社の健康保険を外れ、「後期高齢者医療制度」へ自動的に移行するため、健康保険料の天引きもストップします。

(後期高齢者医療制度の保険料は、本人の年金から天引き・納付書などで個人納付になります)。

しかし、75歳になる場合の健康保険の喪失には例外があります。

この75歳の健康保険喪失だけは、「誕生日の前日」ではなく「誕生日の当日」が基準になるのです。

もし「4月1日生まれ」の社員の場合、70歳の厚生年金は前日ルールの「3月」でストップしますが、75歳の健康保険は当日ルールの「4月」でストップしなければなりません。

したがって、4月1日生まれの社員は後期高齢者被保険者資格を「4月分から取得」します。

逆に、4月1日に75歳到達によって健康保険の被保険者資格を「誕生日当日」に喪失します。(※4月1日に喪失ということ)

この場合、健康保険の被保険者資格は「3月分までは発生」しているので、保険料は「3月分まで徴収」しなくてはなりません。

 

実務のポイント

4月分からは「後期高齢者医療制度」に加入しているので、個人が年金又は納付書で自ら納めることになります。

※会社は3月分まで加入した健康保険の保険料を給与から徴収することになります

 

(例)健康保険の徴収時期:翌月徴収の場合(図解)

健康保険
3月給与 4月給与 5月給与
2月分の保険料を徴収する 3月分の保険料を徴収する(健康保険) 徴収しない(健康保険は3月分までのため)

 

4. 【60歳到達】定年再雇用の給与激減を救う「同日得喪」

 

同日得喪とは?

オホーツクの企業でも、60歳で一度「定年退職」とし、翌日から「嘱託社員(再雇用)」として引き続き雇用するケースが多いでしょう。

この時、給与が大きく下がるのが一般的です。

通常、給与が下がっても社会保険料が安くなるまでには「約3ヶ月(随時改定)」のタイムラグがあり、再雇用された社員は「給料は減ったのに、高い社会保険料が引かれ続ける」という苦しい状態に陥ります。

これを防ぐのが「同日得喪(どうじつとくそう)」という特例手続きです。

60歳以上の再雇用時に、年金事務所へ「一度退職して、同日に再加入した」という手続きを行うことで、給与が下がったその月から、即座に社会保険料を安い金額に引き下げることが可能になります。

 

同日得喪の計算事例

【同日得喪の計算事例:月給30万円から20万円に下がった場合】

定年退職前の月給 30万円(社会保険料の本人負担:約4万5千円、会社負担:約4万5千円)
再雇用後の月給 20万円(社会保険料の本人負担:約3万円、会社負担:約3万円)

※金額は協会けんぽ北海道支部・40歳以上の概算です。

 

もし同日得喪の手続きを忘れると、再雇用後も3ヶ月間は「月給30万円」の時の高い保険料(約4万5千円)が引かれ続けます。

その結果、以下のようになります。

【手続きを忘れた場合の3ヶ月間の損失額】

従業員 手取りが激減(毎月1万5千円の払い過ぎ × 3ヶ月 = 4万5千円の損)
会社 無駄な負担増(毎月1万5千円の払い過ぎ × 3ヶ月 = 4万5千円の損)
労使合計 従業員4万5千円 + 会社4万5千円 = 合計9万円ものお金を払う

この手続きを知らずに放置していると、社員の手取りが少ないのに、給与が高い時の社会保険料を数か月間にわたり引き続けることになります。

 

5. まとめ:シニア社員の給与計算はリスクと専門知識の塊

オホーツク管内のように人手不足が深刻な地域では、60代・70代になっても現場に出てくれるベテラン社員は、会社を支える大切な宝です。

だからこそ、彼らの給与計算は単なる「労働時間 × 時給」の掛け算ではなく、会社と社員の信頼関係を守るための重要なリスク管理業務となっています。

今一度、自社の給与計算において以下の項目が正しく処理されているか、確認してみてください。

 

【今すぐ確認!】シニア社員の給与計算チェックリスト

  • 法改正(令和2年)を知らずに、64歳以上の社員から雇用保険料の徴収漏れを起こしていないか
  • 「1日生まれの罠」に気づかず、介護保険料や厚生年金保険料を1ヶ月分多く引きすぎていないか
  • 定年再雇用時に「同日得喪」の手続きを行い、社会保険料の支払いを適切に運用しているか

 

年齢到達月の変更ポイント早見表

60歳〜 定年再雇用の場合は「同日得喪」で社会保険料を見直す
65歳到達 「介護保険料」の給与天引きをストップする(誕生日の前日が属する月)
70歳到達 「厚生年金保険料」の給与天引きをストップする(誕生日の前日が属する月)
75歳到達 「健康保険料」の給与天引きをストップする(誕生日当日が属する月)

特に「同日得喪」のような特例手続きは、いくら高価な給与ソフトを導入していても自動で提案してくれることはありません。

ルールを知っている人間が意図的に手続きを行わなければ、労使ともに大きな損害を被り続けてしまいます。

長年会社に貢献してくれたシニア社員に対して、計算ミスで不当に手取りを減らしてしまったり、後から「保険料を取り忘れていたので何万円も返してください」と一括請求したりするのは、絶対に避けたい事態です。

「うちの会社のシニア社員の社会保険料、本当に正しい金額で引かれているのだろうか…?」と少しでも不安を感じたら、まずは給与計算と社会保険手続きのプロである社労士にご相談ください。

 

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