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試用期間中の給与計算はどうする?本採用時と異なる条件での注意点まとめ

 

企業の未来を担う新たな人材の採用。

入社後の一定期間を「試用期間」とする企業は多いですが、この期間中の給与計算や労務管理において、本採用時と異なる条件を設定する場合は「細心の注意」が必要です。

本記事では、試用期間における給与設定のルールと計算のポイントを解説いたします。

 

試用期間中の給与設定で企業が陥りやすい落とし穴と結論

まず、試用期間中でも労働基準法や労働関係法令は適用されるため、極端な低賃金や社会保険の未加入は認められません。

企業側は「まだ一人前ではないから」「お試し期間だから」という理由で、本採用時よりも低い基本給を設定したり、各種手当を支給しなかったりすることがあります。

しかし、この設定が法令の定める基準を下回っている場合、後日労働基準監督署からの是正勧告を受けたり、従業員との間で未払い賃金トラブルになるリスクが非常に高くなります。

そのため、試用期間中の給与条件は、最低賃金をクリアしているか、就業規則に明確な規定があるかなど、法的な根拠に基づいて慎重に設計する必要があります。

 

試用期間の法的性質と給与計算の基本ルール

試用期間の法的な位置づけは、最高裁判所の判例により「解約権留保付労働契約」と解釈されています。

これは、企業側に本採用を見送る(解雇する)権利が一定程度留保されているものの、入社した初日からすでに正式な労働契約が成立していることを意味します。

したがって、給与計算においては以下の法令が厳密に適用されます。

  • 労働基準法第24条(賃金支払いの5原則):毎月1回以上、一定の期日に全額を支払う義務があります。
  • 最低賃金法第4条:都道府県ごとに定められた地域別最低賃金以上の金額を支払う義務があります。都道府県労働局長の許可(最低賃金の減額の特例許可)を受けない限り、試用期間中であっても最低賃金を下回ることはできません。
  • 健康保険法第39条および厚生年金保険法第9条:試用期間中であっても、原則として入社日から社会保険(健康保険・厚生年金保険)の被保険者となります。

「試用期間が終わってから社会保険に入れる」といった運用は、年金事務所の調査で発覚した際に過去に遡って保険料を徴収される原因となるため、絶対に避けるべきです。

 

北海道の企業が注意すべき試用期間の特有事情

北海道で事業を営む企業にとって、試用期間中の給与設定で特に気をつけたいのが地域特有の事情です。

まず、毎年10月頃に改定される北海道の地域別最低賃金です。

試用期間の基本給を低く設定している場合、10月の最低賃金改定により時給換算額が最低賃金を下回る可能性があります。

基本給だけでなく、固定残業代などを除外した基礎賃金で最低賃金を上回っているか、定期的なチェックが不可欠です。

次に、冬期手当や燃料手当の取り扱いです。

北見市などのオホーツク管内では、寒さが本格化する前に従業員へ燃料手当を支給する企業が多く存在します。

ここで問題になるのが「試用期間中の従業員にも燃料手当を支給するのか」という点です。

北海道の厳しい冬を越す従業員に対し、試用期間であることだけを理由に暖房費の補助を一切しない運用は、従業員のモチベーション低下や早期離職の引き金になります。

支給要件や金額の違いについては、合理的な理由を持たせ、就業規則や賃金規程に明記しておくことが求められます。

 

試用期間中と本採用時の給与・社会保険の比較

試用期間中と本採用時で、給与や各種保険の取り扱いがどう変わるのか、また変わってはいけないのかを表にまとめました。

項目 試用期間中 本採用時 法的根拠・注意点
基本給の設定 本採用時より低く設定可能 規程通りの額 必ず地域別最低賃金を上回ること(最低賃金法)
割増賃金(残業代)率 25%以上(時間外) 25%以上(時間外) 試用期間中も労働基準法第37条が適用される
社会保険(健保・厚年) 入社日から加入義務あり 継続 要件を満たす場合は初日から加入(健康保険法等)
雇用保険・労災保険 入社日から加入義務あり 継続 お試し期間でも労働者として保護される
各種手当(通勤・住宅等) 規程により制限可能。ただし、当該手当の趣旨・性質、職務内容等に照らし、不合理な待遇差とならないよう合理性が求められる。 規程に基づき支給 就業規則に不支給や減額の条件を明記する必要あり

 

社会保険料は、試用期間中の低い給与を基に標準報酬月額が決定されます。

本採用後に給与が大幅に上がった場合は、随時改定(月額変更届)の対象になるかどうかの確認を忘れないようにしましょう。

 

紋別市の製造業を想定した給与シミュレーション

具体的なイメージを掴んでいただくため、オホーツク管内にある製造業の企業をモデルに、試用期間中の給与計算と残業代のシミュレーションを行います。

条件:
・本採用時の基本給:220,000円
・試用期間中(3ヶ月間)の基本給:180,000円
・月の平均所定労働時間:170時間
・試用期間中のある月に20時間の時間外労働(残業)が発生した場合

まず、試用期間中の基本給が最低賃金をクリアしているかを確認します。

180,000円を170時間で割ると、1時間あたりの賃金は約1,058円となります。これが北海道の最低賃金(改正のため毎年確認必須)を上回っていれば適法です。

次に、試用期間中の残業代計算です。

残業単価は「本採用時の基本給」ではなく、「試用期間中の基本給」をベースに計算します。

1時間あたりの基礎賃金:180,000円 ÷ 170時間 = 1,058円(端数処理前で計算)
残業代:1,058円 × 1.25(割増率)× 20時間 = 26,450円

試用期間中の総支給額:
180,000円(基本給)+ 26,450円(残業代)= 206,450円

よくある間違いとして、残業代だけ本採用時の基本給をベースに計算してしまったり、逆に残業代を一切支払わなかったりするケースがあります。

労働した分の対価は、その時点での賃金条件に基づいて正確に計算し、全額支払う必要があります。

 

試用期間に潜む労務トラブルのリスクと企業防衛策

試用期間中の給与計算や労務管理において、企業が直面しやすいリスクとその対策について解説します。

最も多いトラブルは「本採用の拒否(解雇)」と「給与の不当な減額」です。

試用期間中であっても、入社から14日を超えて引き続き雇用している従業員を解雇する場合、労働基準法第20条(解雇予告の原則)に基づき、30日前の解雇予告または解雇予告手当の支払いが必要です。

「試用期間だから明日から来なくていい」といった即時解雇は不当解雇として訴えられるリスクがあります。

また、「能力が足りないから」と試用期間を一方的に延長し、低い給与のまま長期間働かせることもトラブルの元です。

試用期間の延長は、就業規則に延長の可能性がある旨が明記されており、かつ合理的な理由がある場合にのみ認められます。

対策としては以下の3点が重要です。

  • 雇用契約書の明示:入社時に、試用期間の長さ、その期間中の給与額、本採用の判断基準を書面で明示し、双方で合意を得る。
  • 就業規則の整備:試用期間中の手当の取り扱いや、試用期間延長の条件を賃金規程や就業規則に明確に記載する。
  • こまめな面談と記録:試用期間中は定期的に面談を行い、業務の進捗や改善点を伝え、その記録を残しておくことで、万が一本採用を見送る際の客観的な根拠とする。

 

試用期間の給与に関するよくある質問(Q&A)

Q1. 試用期間中の給与を日給制にすることは可能ですか?

可能です。

本採用後は月給制であっても、試用期間中のみ日給制や時給制とすることは、就業規則や雇用契約書にその旨が明確に記載されていれば法令上問題ありません。

ただし、賃金水準や制度変更の内容については、職務内容等に照らして不合理な待遇差とならないよう合理性が求められます。

また、日給や時給に換算した金額が地域の最低賃金を下回らないよう注意が必要です。

 

Q2. 通勤する新入社員に対し、試用期間中は通勤手当を支給しないことは法律違反ですか?

通勤手当の支給は労働基準法で義務付けられているものではないため、就業規則に「試用期間中は通勤手当を支給しない」と明記されていれば直ちに法律違反とはなりません。

しかし、遠方からの通勤者にとって交通費の自己負担は大きく、離職の原因になりやすいため、実務的な観点からは上限を設けるなどして一部でも支給することを推奨します。

 

Q3. 試用期間中に欠勤があった場合、どのように給与計算から控除すればよいですか?

ノーワーク・ノーペイの原則に基づき、働かなかった時間分の賃金を控除することができます。

控除する際の1日(または1時間)あたりの単価は、試用期間中の基本給を基に計算します。計算式や端数処理の方法は、就業規則に定めたルールに従って正確に処理を行ってください。

 

まとめ

試用期間は、企業と従業員がお互いを見極めるための大切な時間です。

だからこそ、この期間中の給与計算が曖昧であったり、法令を軽視した運用がなされていたりすると、会社への不信感につながり、せっかく採用した人材が定着しない原因となってしまいます。

北海道という広大で独自の環境を持つ地域では、企業が成長していくには法令遵守に基づいた誠実な対応が欠かせません。

オホーツク管内で奮闘される企業の皆様が、安心して事業に専念できるよう、給与計算という足元から組織の土台を固めていくことが重要です。

正しい知識と情熱を持って、共に地域を盛り上げていきましょう。

給与計算は会社のリスク管理そのものです。まずは自社の状況をチェックしてみてくださいね。

 

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