毎月の給与計算、本当に今のやり方で合っているのか不安になることはありませんか。
特に月給制の社員については、毎月定額を支払っているから最低賃金はクリアしているだろうと安心しがちです。
しかし、この思い込みが思わぬ落とし穴になることがあります。
最新の法令に基づき、道内企業の安定した経営と労務管理をサポートする視点から、月給制における最低賃金割れのリスクと、正しい時給換算の方法について解説します。
月給制でも最低賃金割れに注意が必要な理由
結論から言いますと、月給制であっても最低賃金を下回るケースはあります。
その理由は、最低賃金の計算において「含めてはいけない手当」が存在し、それらを除外して時給換算すると、基準額に届かないことがあるからです。
たとえば、基本給が低めに設定されており、様々な手当で総支給額を補っている給与体系の会社を想像してみてください。
総支給額が20万円を超えていても、法律で定められた計算式に当てはめると、時給換算で北海道の最低賃金を下回ってしまうことがあります。
したがって、月給制でも総支給額だけで判断しないで、正しい計算式で時給換算を行い、最低賃金をクリアしているか定期的に確認することが重要です。
最低賃金と対象になる賃金の仕組み
最低賃金法第4条第1項により、使用者は労働者に対して最低賃金額以上の賃金を支払う義務があります。
月給制の社員が最低賃金を上回っているかを確認するには、月給を時給に換算して比較しなければなりません。
ここで最も重要なのが、「どの賃金を計算の対象にするか」です。厚生労働省の指針に基づき、最低賃金の対象となる賃金、ならない賃金を整理します。
最低賃金の対象とならない賃金(除外賃金)
以下の賃金は、労働基準法や最低賃金法の規定により、計算から除外しなければなりません。
- 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
- 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
- 所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
- 午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
- 精皆勤手当、通勤手当及び家族手当
対象となる賃金の考え方
上記で挙げた除外賃金を、毎月支払われる総支給額から差し引いた金額が、最低賃金の計算対象となる賃金です。基本給や役職手当、資格手当などは計算に含めることができます。
| 賃金の種類 | 最低賃金の対象か |
|---|---|
| 基本給 | 対象となる |
| 役職手当・資格手当 | 対象となる |
| 通勤手当 | 対象とならない(除外) |
| 家族手当・精皆勤手当 | 対象とならない(除外) |
| 時間外手当(残業代) | 対象とならない(除外) |
北海道特有の注意点!冬期手当と広大なエリアの通勤手当
北海道で事業を営む企業にとって、給与計算には地域特有の事情が深く関わってきます。オホーツク管内のように冬の寒さが厳しい地域では、特に注意すべきポイントがあります。
燃料手当(冬期手当)の取り扱い
北海道の多くの企業では、冬場に「燃料手当」や「冬期手当」を支給する習慣があります。
北見市や網走市などのオホーツク地域では、暖房費の負担が大きいため、従業員にとって非常に重要な手当です。
この燃料手当が、最低賃金の計算においてどのように扱われるかは、支給方法によって異なります。
燃料手当については、支給頻度により最低賃金への算入可否が判断されます。1か月を超える期間ごとに支払われる場合(年1回の一括支給など)は、最低賃金の対象から除外されます。
しかし、毎月の給与に「寒冷地手当」として定額を上乗せしているような場合は注意が必要です。
名目が何であれ、実質的に基本給の一部として毎月定額が支払われているとみなされると、最低賃金の対象賃金に含まれる可能性があります。
とはいえ、家族手当的な性質を持つ場合などは判断が分かれるため、総支給額を底上げする目的で手当を乱立させるのはリスクが高いと言えます。
高額になりがちな通勤手当の除外忘れ
北海道は広大です。滝上町や遠軽町などの事業所へ、遠方からマイカー通勤する従業員も少なくありません。そのため、通勤手当が高額になる傾向があります。
前述の通り、通勤手当は最低賃金の計算から除外しなければなりません。
総支給額が25万円あっても、そのうち通勤手当が3万円、家族手当が2万円、残業代が3万円だった場合、最低賃金の対象となる賃金は17万円まで下がってしまいます。
通勤手当が高額な従業員ほど、最低賃金割れのリスクが高まるという事実を、経営者はしっかり認識しておく必要があります。
時給換算の比較と可視化
月給制の時給換算は、以下の計算式で行います。
(月給の合計額 - 除外賃金) ÷ 1か月平均所定労働時間 = 換算時給
ここで、手当の除外を間違えた場合と、正しく計算した場合でどれほどの差が出るのかを比較してみましょう。
| 項目 | 誤った計算(総支給で計算) | 正しい計算(除外賃金を引く) |
|---|---|---|
| 総支給額 | 220,000円 | 220,000円 |
| 内訳:基本給 | 150,000円 | 150,000円 |
| 内訳:役職手当 | 10,000円 | 10,000円 |
| 内訳:通勤手当 | 20,000円 | 20,000円(除外) |
| 内訳:家族手当 | 10,000円 | 10,000円(除外) |
| 内訳:時間外手当 | 30,000円 | 30,000円(除外) |
| 対象となる賃金 | 220,000円 | 160,000円(基本給+役職手当) |
| 1か月平均所定労働時間 | 170時間 | 170時間 |
| 換算時給 | 約1,294円 | 約941円 |
誤った計算では時給1,294円となり、最低賃金を余裕でクリアしているように見えます。
しかし、正しい計算をすると時給941円となり、北海道の最低賃金基準を下回る状態に陥ってしまいます。
実践:具体的な計算例やシミュレーション
さらに実務に即したシミュレーションを行ってみましょう。美幌町の商店で働く経理担当のAさんを例にします。
(注意)下記は参考例なので、毎年かならず最低賃金は確認してください!
Aさんの労働条件は以下の通りです。
- 年間所定休日:105日
- 1日の所定労働時間:8時間
- 基本給:160,000円
- 精皆勤手当:10,000円
- 通勤手当:15,000円
まず、1か月平均所定労働時間を算出します。
(365日 - 105日) × 8時間 ÷ 12か月 = 約173.3時間
次に、最低賃金の対象となる賃金を算出します。
精皆勤手当と通勤手当は除外賃金にあたるため、差し引きます。
基本給の160,000円のみが対象となります。
最後に、時給換算を行います。
160,000円 ÷ 173.3時間 = 約923円
この換算時給が現在の北海道の最低賃金を下回っていれば、最低賃金法違反となります。
このケースでは時給換算額が923円となるため、法令で定められた基準額との差額を埋めるために、月額で大幅な賃金引き上げが必要だということが分かります。
間違えた場合のリスクと対策
最低賃金を下回る金額で従業員を働かせていた場合、経営者には重い罰則が科される可能性があります。
最低賃金法第40条の規定により、地域別最低賃金額以上の賃金を支払わなかった使用者は、50万円以下の罰金に処せられます。
単なる計算ミスであったとしても、法律違反という事実に変わりはありません。また、過去に遡って不足分の賃金を支払う義務も生じます。
労働基準法第115条による賃金請求権の消滅時効は現在3年(当分の間)となっています。
従業員数が多い場合、過去3年分の差額をまとめて請求されると、会社の資金繰りに致命的なダメージを与えかねません。
対策としては、毎年の最低賃金改定の時期に合わせて、全従業員の給与について時給換算のチェックを必ず実施することです。
特に新入社員や、基本給を低く抑えて各種手当で調整している従業員については、重点的な確認が必要です。
給与計算ソフトを導入している場合でも、手当の属性(除外賃金かどうか)の設定が誤っていれば正しいアラートが出ませんので、設定内容を見直すことも忘れないでください。
よくある質問(Q&A)
歩合給(出来高払制)の社員の最低賃金はどう計算しますか?
歩合給の場合、対象となる賃金の総額を、その賃金算定期間における総労働時間数で割って時給換算します。
月給制の基本給と歩合給が混在している場合は、それぞれ別々に時給換算を行い、その合計額を最低賃金と比較します。
労働基準法第27条に基づく保障給の規定にも注意が必要です。
試用期間中の社員も最低賃金の対象になりますか?
はい、試用期間中の社員であっても、原則として地域別最低賃金が適用されます。
ただし、都道府県労働局長の許可を受けた場合に限り、最低賃金の減額の特例が認められる制度がありますが、手続きを経ずに独自に減額することは違法となります。
手当を基本給に組み込めば解決しますか?
通勤手当や家族手当を廃止し、その分を基本給に組み込むことで、最低賃金の対象となる賃金を増やすことは一つの方法です。
しかし、労働条件の不利益変更にあたる可能性があるため、就業規則の変更手続きや従業員からの同意を慎重に得る必要があります。
安易な手当の統廃合は労使トラブルの元になります。
まとめ
月給制であっても、最低賃金割れのリスクは身近に潜んでいます。
総支給額だけで安心せず、法律で定められた除外賃金を正しく理解し、正確な1か月平均所定労働時間で時給換算を行うことが不可欠です。
特に北海道やオホーツク地域では、通勤距離の長さから通勤手当が高額になりやすく、また冬期の手当など独自の給与構成を持つ企業も多いため、計算ミスが起こりやすい環境にあります。
給与計算の正確性は、そのまま会社のリスク管理、ひいては企業防衛につながります。
まずは、自社の給与明細と就業規則を照らし合わせ、手当の性質と時給換算額をチェックしてみてください。
正しい給与計算に基づく労務管理が、オホーツクの企業をさらに元気にし、従業員が安心して働ける土台を作ります。
給与計算は会社のリスク管理そのものです。まずは自社の状況をチェックしてみてくださいね。